2016/03/03

Mo 01 ある囚人の釈放

 予言がなされ、しかる後に事象が起こる。
 されど英雄無くしてはいかなる事象も生じ得ない。
“アンダーキング” ズーリン・アルクタス

 タムリエル第三紀末期、宿命の日に両親も知れぬまま生まれ出でた囚人が、監視のもと、何の説明も受けずにモロウウィンドへ送られた。かの地の歴史において自らが果たすべき役割を知る由もなく。


あなたは帝都の牢獄より連れ出されました。
初めは馬車で、そして今は船で。
東へ。モロウウィンドへ。
恐れることはありません。私が見守っています。
あなたは選ばれたのです。


「起きろ。着いたぞ。 おい、どうした? 大丈夫か? 起きるんだ」
 男の声が聞こえ、続いて体を揺さぶられ、私は目を覚ました。船底の薄暗い一角の、毛布も何も敷いていない硬い床の上での覚醒。眠る前に感じていた吐き気はいくらか改善しているみたいだけど、それでもこの目覚めはここ数年間における最悪のものだと断言できる。
「まだ気分が悪いのか?」
 そう言って、半裸でぼろを纏ったダークエルフの男が私の顔を覗きこんだ。次いで背中をさすってやる。
「……ありがとう。もう平気。吐きもしない」
 男は苦笑を漏らした。思い出したくもなかったが、船が突然の嵐に見舞われた昨晩のことを回想してしまう。私が収容されていた船底の狭い部屋は浸水し、その上荒々しい波に揺られた船に酔った私は盛大に嘔吐してしまった。それで兵士に今いる物置に連れて来られ、そこに同じく囚人と思しき粗末な衣服を着た、片目が潰れた男がおり――それ以降の記憶は曖昧だった。目の前にいる男の前でまた吐いてしまったかもしれない。恥ずかしくて俯いてしまう。
 それにしても、いつの間に私は眠ってしまったのか?
 体調は最悪で見知らぬ囚人の男もいたというのに眠れるほど自分の精神は図太くないはずだ。と、頭にずきりとした痛覚。手探りで調べたところ、たんこぶができていた。ひょっとしたら眠っていたのではなく気絶していたのかもしれない。しかし、気絶していても夢は見るのだろうか。
「ほら、立ってみろ」
 手を差し伸べられたので、その手にすがり、言われるがまま立ち上がる。ふらついたが支えられたので何とか真っ直ぐ立つことができた。立ったことで、船の動きがとても穏やかなことに気付く。僅かに上下しているだけ。すなわち、船は停泊していた。これが意味することは……。
「その調子だ。夢でも見ていたんだろう。ほら、名前は言えるか?」
 夢。そう、私は目覚める直前まで夢を見ていた。奇妙な夢だった。見たことがないほど荒涼とした、嵐がふきすさぶ赤い荒野。雨でも雪でもない何かが狂おしく舞っていた。そこで声がしたのだ。女性の声だったように思う。落ち着いた、しかし力のある声。何と言っていたのか。頭が痛くて集中できない。
 ……男がどことなく心配そうに自分を見ている。夢のことを考えるのは後にしよう。いくら体が重かろうが気にかかることがあろうが、世話になった人に失礼なことはしたくない。名前を聞かれたのだったか。
「私はヴェナサ。あなたは?」
「ジウブ(Jiub)だ」
 微かに笑みを浮かべた囚人の男と私は名乗りあった。



「昨晩はひどい嵐だったのに、お前は全く目を覚まさなかったな。モロウウィンドに到着したという声がしてたから、俺達はきっと釈放だ」
「モロウウィンド……?」
「しっ、兵士がやって来る」
 言葉の意味を問い質す間もなく、二人が入れられている船倉の狭い空間のドアが開けられ、一人の帝国兵が姿を見せる。
「お前はここで降りるんだ。ついて来い」
 兵士がジェスチャーで示したのは私一人だけ。言うだけ言って、私の反応を確認しもせずに歩き出した。
 ジウブの方を窺うと、黙ってついて行けと身振りで促される。疑問は尽きないが反抗しても仕方がないので兵士について行くことにした。私達二人が押し込められていた船の下層の倉庫から出、船員達の生活空間を通り過ぎ、階段を上がって上層へ。船員や兵士が眠る場所らしき、ハンモックがいくつも吊るされたエリアを抜ける。船乗り達は慌ただしく動き回り、私に注意を向ける者はいなかった。そうこうしている間に、目の前に再び階段が現れる。ただし、階段の先は天井とハッチだ。
「甲板へ上がるのだ。文明人らしく行儀よくしろよ」
 インペリアルのだみ声が頭に響く。こっちは二日酔いよりもひどい気分なんだから静かに喋ってほしいが、言ったところで反感を買うだけなので沈黙を貫いた。階段を上がってハッチを押し上げ、甲板に出る。私の気分とは正反対の晴天だ。ずっと船内に閉じこめられていた身にはあまりにも眩しく、目を細める。何十日かぶりの外の新鮮な空気を全身に浴び、少しだけ気分が良くなった。
 しかし、すぐに気が付く。確かに新鮮な海辺の空気ではあるけど、それが全く知らないにおいを孕んでいることに。ジウブはモロウウィンドと言っていた。ここは本当にモロウウィンドなのだろうか。ダークエルフではあるけど、私はこれまで一度もモロウウィンドに足を踏み入れたことがなかった。


 ぼうっとしていると、甲板にいた別の帝国兵から、波止場に降りてそこにいる人の案内で人口調査事務所(Census Office)へ行くよう指示された。私の行動を見張ってはいるが、それ以上の手出しはしてこない。海辺に見える建物はどう見ても牢獄ではなく、身体の拘束もされずに船外へ出されたため、どうやら本当に釈放されるらしい。しかし手放しでは喜べない。未知の土地へ連れて来られたのだから。
 体がふらつくため、ゆっくりと船から波止場に降りる。緩やかに波打つ海面に、元々青黒い顔がさらに青くなっているダークエルフの女の顔が映っていた。ひどい顔だ。水が貴重である船旅のせいで何日も風呂に入っておらず、最低限体を濡らした布で拭くことは許されていたが、伸ばしていた赤毛はぼろぼろだ。見るに堪えないと感じ、釣り目がちな赤い目が不機嫌そうに細められる。早いうちに何とかしたいと思いつつも、それを実現できるかはまだ分からなかった。

 波止場に一人立っていた帝国兵は私を待っていたようだった。私の顔を見るなり、嫌みたらしく「ようやっと到着したか」と独りごちる。言いがかりだった。本当に待っていたとしても、待たせたのは自分の責任ではなく嵐のせいだろう。
 兵士は手に持っていた一枚の紙に視線を向け、もったいぶって喋り出した。
「囚人の確認をする。名を名乗れ」
「ヴェナサ」
 ぶっきらぼうな返答。それくらいは許されるだろう。
「名字はないのか? ダークエルフだろう」
「生憎だけど、生まれてこの方名字はない」
「そうか。年齢は?」
「26」
「次は、む……この記録によると、出身地が記載漏れだ。どこだ? 答えろ」
「コロール(Chorrol)、シロディールの」
 後で書き足しておかなければならんなと兵士はぶつくさ言いながら、不機嫌そうに言葉を続ける。
「顔立ちも……赤い髪……ふむ、書かれている通りだ。宜しい。間違いないようだ。釈放の手続きを局でするから、私の後をついて来なさい」
 この兵士の先導で桟橋を進み、人口調査事務所の海に面している出入り口に案内された。至って普通の木製の扉。本来は移民や旅行者などの渡航者のための入口のように思えた。
 中に入る前に後ろを振り返る。


 私が運ばれてきた船から降りた人は私以外にもいるが、それは船員や兵士ばかりだった。ジウヴの姿はない。
「他に釈放される囚人はいないの?」
「早く中に入れ」
 ジウブの釈放場所はここではないのかもしれなかった。気がかりだったが、できることは何もない。せめてちゃんとお礼を言いたかったと後悔しながら、重たい足を動かした。




 人口調査事務所の中は小綺麗な部屋だった。事務作業用の机と、大量の書類をしまうための棚が置いてある。私が中に入るや否や、事務官らしき人間の男が私を見てにっこり笑い、手招きをした。背がやや低く頭頂部が禿げている、老境に差しかかった細身のブレトンの男だ。
「やあやあ、よく来たね。私はソクシウス・エルガーラ(Socucius Ergalla)。ここセイダ・ニーン(Seyda Neen)の人口調査・税務事務所(Census and Excise Office)で所長をしておる。立たせたままですまんが、すぐ終わるからの」
 一見すると人好きのする温和そうな人物だが、恐らくただの好々爺ではないだろう。
「きみにはずうーっと注目していたのだよ」
 聞き流しかけたけど、違和感に襲われる。「ずっと」注目という言葉の意味が分からなかった。
「正式に釈放を行う前に、きみの記録を残しておかないとならんのだ」
 よくよく考えるべきなのだろうけど、また頭が痛くなってきた。まだ船に乗っているかのように床が揺れている気さえする。
「……それに書けばいいの? 貸して」
 用紙と羽ペンを渡されたので、それに目を通す。傍らの事務机の上にあるインクをペンに付けて、机に寄りかかり楽な姿勢を取り、紙の空欄を埋めていく。書いているのを脇から覗かれているのは落ち着かなかったが、努めて気にしないようにした。名前、性別、種族、生年月日、年齢、出身地。逮捕前の住所の記入を求められ、嫌な記憶が脳裏を一瞬で駆け廻った。帝都(Imperial City)と筆跡荒く記し、職業を尋ねる次の質問の答えを書き殴る。
「職業、錬金術師? そんなに逞しい体つきでは、てっきり傭兵か何かをしていたのかと思ったが」
「……錬金術の探究のため野外に出るなら、自分の身は自分で守らなければならない」
「ほうほう、なるほど」
 問いかけに答えながら、紙の残りの細々とした質問に答えていった。全てを記し終えると、所長はもう一度全文に目を通し、満足したように頷く。
「宜しい。親書によると、きみは『宿命の星の下に生まれいでた』とある。黄昏の月の生まれとなると、精霊座か。なるほど」
 今度の違和感の原因は探るまでもなかった。いくら頭が割れるように痛もうとも、「親書」という単語の意味くらい分かる。親書、すなわち皇帝からの文書。
「では、もう一度書面に目を通してくれたまえ。これで間違いなければスタンプを押そう」
「……間違いない」
 自分が書いた内容を見直して頷いた私の返答を受け、エルガーラ所長は判を押した。
「こちら側の書類はこれでよい。きみはこの建物を出た先にいる将軍に、そこの書類を渡しなさい。そうすれば釈放時の給金が発給される」
「その前に質問があるのだけど」
「まあまあ、まずはそれを読んでみるといい」
 釈然としない気持ちを抱えたまま、ここに来た時から机の上に置いてあった巻かれた紙を取り上げ、中を開いた。

皇帝ユリエル・セプティム(Uriel Septim)7世の命により、釈放する。
モロウウィンド州、ヴァーデンフェル(Vvardenfell)地区 
氏名:ヴェナサ
種族:ダークエルフ
職業:錬金術師
署名、
ソクシウス・エルガーラ
セイダ・ニーン帝立人口調査・税務事務所 執行官
第3期427年収穫の月16日
「何、これ」
「見ての通り、釈放証明書だが」
「皇帝の命により釈放? どういうこと?」
「きみのなすべきことにことについては将軍から説明があるはずじゃよ」
 この爺さんは予想通り狸だ、問い詰めてもはぐらかされるだけだろう。
 理解できないほど奇妙な釈放証明書を手に取り、私は踵を返すと部屋から廊下へと続く扉をくぐった。



 背後で扉が閉まる。廊下に人気はない。
 廊下を歩いていくと、ここの職員の休憩スペースらしき場所があった。机の上に軽食が置かれている。部外者を一人でこんな所に来させていいのかしら。
 突き当りに扉があったので開くと、外――ではなく狭い中庭に通じていた。塀に囲まれた小さな庭だ。海のにおいがする。行くように指示されているのは中庭を挟んで向かいにある建物だろう。両方とも事務所の建物であるなら、その間に屋根がなくては雨の日は一々移動する度に濡れてしまって不便だろうに。
 空気が変わったからか足元がふらついたので、咄嗟に傍らにあった樽に手を付き体を支え、くらくらする感覚が収まるまで待つ。
「はあ」
 荒れた唇から溜め息が洩れた。本来の自分はこんなに弱々しくないのに。とにかく気分が悪かった。船酔いがまだ続いている感覚。
「……あら?」
 樽にもたれていた手の位置を変えた拍子に、私の手に何か小さな物が当たった。指輪だ。いくらか摩耗しくすんでいるが、輪の部分に彫刻が施された指輪。何で樽の上に指輪なんて置いてあるのかしら。手に取ってみると、僅かにマジカの波動を感じられた。付呪が籠められているいるようだ。初歩的な自己治癒の魔法。自然と口角が上がった。
 誰も周りにいないことを確認すると、小さく呪文を唱え、指輪にかけられた付呪を解き放つ。回復魔法の初歩の初歩、自己の些細な怪我を直し、マジカの流れを整える治癒の魔法。大した魔法ではないが、それでも私にとっては干天の慈雨だった。
 付呪された品のものとはいえ、久しぶりの魔法の行使だ。囚人は当然ながら魔法の使用が禁じられる。船での移動中は直接的に魔法の行使を阻害する措置を取られなかったが、それは船上からは逃れようがないと思っていたからだろう。……今にして思えば、「暗視」、「消音」と「水中呼吸」を駆使すれば何とかなったかもしれないけど、もしそうした場合はその後一生帝国軍に追われることになるであろうことも容易に想像できた。
 いや、そもそも使えなかったか。船に乗せられるまで沈黙とマジカ奪取の付呪が施された手枷を付けられていたせいで、私の体内のマジカは未だに乱れに乱れている。しばらくは初歩的な魔法しか使えないだろう。屈辱的だ。
 何度か深呼吸して自分の怒りを鎮める。それはそれとして、指輪はもらっていくことにしよう。樽の上にこんなに無造作に置いてあったということは、無くなっても気付かれないだろう。利き手とは反対の指にそっと指輪をはめ、支えとしていた樽から手を離す。もうふらつきはしなかった。




 中庭から隣の建物に行くと、私は他の帝国兵より高価そうな鎧を着たインペリアルに迎えられた。
「まず、きみの証明書を渡したまえ」
 室内に他に人はいない。彼がエルガーラ所長の言っていた将軍だろうと推測し、大人しく釈放証明書を手渡した。
「ありがとう」
 彼が書類に目を通している間にこの部屋を見渡す。ごくごく普通の事務室のようだ。高価な品をこれ見よがしな場所に飾ってあるのも、こういう人達にはよくあることだろう。高級な鎧の男が証明書を読み終えたので、私も彼へ視線を戻した。
「きみの到着は昨日になるまで私に知らされていなかった。私はセルス・グラヴィウス(Sellus Gravius)だ。まあ、私の素性は重要なことではない。モロウウィンドへようこそ」
 事務的な口調で形式的に歓迎の言葉を述べ、表情を変えずに言葉を続ける。
「きみはモロウウィンドにいる。どうしてここに送られたのかまでは知らんよ。釈放された理由もだ。しかしながら、皇帝ユリエル・セプティム7世ご自身が直接この命令を出されたのだ。私はそれ以上詮索したいとも思わない。きみはこの事務所を出たら自由の身だ。だが、その前に、きみに任務を与えなくてはならん。皇帝からの仰せなのだ。いいか、注意して聞くのだぞ」
「ちょっと待って、それは皇帝陛下から私に下された任務だということ?」
「うむ。私が聞いた説明では、陛下が直々にきみの釈放を指示し、ここへ寄こしたのだ。全く不可思議なことではあるが、これが帝国風のやり方なのだろう。沈黙に秘密というやつだ。右手が行うことを左手に知らせてはならん、とな」
 皇帝から直々に命令が下される理由など一つも心当たりはなかった。私自身が考える限りにおいて、私は有名でも勇猛でもない。ある程度有能ではあると自負していたが、自分より能力があり皇帝に忠実な者は腐る程いるはずであることは考えるまでもなく分かる。
「この包みはきみの到着と同時に着いた物だ」
 私の困惑を気にも留めず、グラヴィウス将軍は仕事机に置いてある、握り拳大の小さな包みを手に取った。
「きみはこれをバルモラ(Balmora)の街にいるカイウス・コーサディス(Caius Cosades)に持って行く。まず、南壁サウスウォールコーナークラブ(South Wall Cornerclub)へ寄り、カイウス・コーサディスについて尋ねるのだ。そうすれば、どこで会えるか教えられる。皇帝ご自身にお仕えするつもりでカイウス・コーサディスに仕えるのだぞ。きみには手紙と、きみの名を証明する物を持たせる」
 複雑な命令でなくてよかった。記録を取る物が何もないのは不便だと痛感する。
 グラヴィス将軍から封筒に入った手紙と、紐で封がされた包みが渡された。
「これは釈放の給金だ、あとこれも使うといい」
 次いで、中から金貨の音がする小袋と、なめされた革製のウェストポーチが机上に置かれた。囚人の身の上から釈放されたばかりの私は、当然鞄も何も持っていない。重要な包みをずっと手で持って行けと言われなかったのは帝国の僅かな気遣いだろうか。
 礼の言葉を述べ、私はまずウェストポーチを手に取った。囚人に支給された粗末な服の上にポーチのベルトを巻きつける。それから残りの物を全て取った。
「この場で確認してもいいかしら?」
「構わないが、私は目に入れたくない」
「じゃああっちの隅をお借りする」
 重い足取りで将軍から一番遠い部屋の隅まで行き、壁に背中を預け、まずは小袋を開けて金貨の枚数を数えた。セプティム金貨87枚。こんなにいただけるなんて帝国はなんてお優しいのかしら。使い道を慎重に考えなければすぐ路頭に迷ってしまうだろう。勝手に溜息が出る。
 金貨を元通りにしまい、その袋を服の中に押しこんだ。そして、気が進まぬまま手紙を開封する。

ヴェナサ
君には以下の命令と書類包みが与えられている。これは誰にも見せてはいけない。包みの中の書類を読もうとしてはならない。この包みには封印がなされている。細工をしようものなら発見され処罰を受けるだろう。
以下の命令に従え。 
ヴァーデンフェル地区にあるバルモラの街へ向かえ。カイウス・コーサディスという名前の男の元へ出頭せよ。彼は君の上司であり、後見人である。彼の命令に従え。彼の住所は不明なので、「南壁サウスウォール」という名前のコーナークラブで尋ねること。そうすれば、カイウス・コーサディスの居場所が分かるはずだ。カイウス・コーサディスの元に出頭したら、彼にこの包みを渡せ。そして、次なる命令を待て。
心せよ。 君は皇帝陛下に命と自由の借りがある。陛下に尽くせば、報酬が与えられる。もし陛下を裏切れば、君は一生裏切り者として惨めに過ごす事になる。
最高権力者、皇帝ユリエル・セプティムの御命令により、これを用意する栄誉を授かり、我したためるなり。
皇帝陛下つき私設秘書
グラブリオ・ベリエヌス(Glabrio Bellienus)

 また溜息が漏れた。選択の自由はないであろうことに気が重くなりながら、手紙を封筒の中に戻し、ポーチに入れる。中身を検めることを禁止された包みも同様にポーチにしまった。
「将軍。聞くのを忘れていたのだけど、バルモラとやらにはどう行けばいい?」
「道順であれば私ではなく、土地に詳しい者に教えを乞うのがいいだろう。ここセイダ・ニーンのアリーレ(Arrille)のトレードハウス(Tradehouse)にいる、斥候のエローネ(Elone)に聞きなさい。だが、きみは不案内であるから、シルト・ストライダー(silt strider)を使ってバルモラに行くべきだな。早く、安く、安全だ。橋を渡って東に行けば乗り場がある」
「……ご親切にありがとうございます」
 意味の取れない単語が複数あったが、質問する気にはならなかった。それよりも、ゆっくり思考する時間が欲しい。




 将軍の事務部屋から扉をくぐると、今度こそ外に通じていた。海の方を見やると、桟橋にはもう船は泊まっていなかった。囚人一人を輸送した船は早々に行ってしまったのだ。私を独り、見知らぬ地に残して。



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後書き

 Morrowindのオープニングは特別な任務を帯びた囚人の釈放から始まるからか、Oblivion、Skyrimと比較すると温厚であると感じます。
 もしもっとハードなオープニングをご希望でしたら、「Immersive Chargen」というmodによる代替のオープニングが選択肢としてあります。




 このmodでは釈放される大勢の囚人の一人、ただし特別扱いをされている、他の囚人達の様子は何かがおかしく――という感じになります。セイダ・ニーンの治安が心配です。

2 件のコメント:

  1. 囚われの身から見知らぬ土地に放り出される感じがTESシリーズならでは!って感じがしますね。

    TesシリーズはOblivion以降からしかしたことがないのですが、
    こういうモロウィンドのような古くて味のある雰囲気が物凄く好きです。
    (雰囲気だけで言うと、スカイリムよりもOblivion派!)

    それはともかく、突然、皇帝の命を受けて釈放されたとはいえ、
    命令には背けないであろうことを匂わせる攻撃的な文面が、また実にいいですねー!

    せぷてぃむ「お前を自由にしてやったが、選択の自由を与えるつもりはない、どうだ、まいったか!」
    と書面の向こうから言われているような感じ。

    とにかく、皇帝の信頼を得るところから始めないといけないようですね!

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    1. コメントありがとうございます。
      Morrowindは大好きなゲームですので、好きだと言っていただけて嬉しいです。
      これから、Morrowindをプレイしたくなるくらいに魅力を発信していければと思いますので、よろしくお願いします。

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