【Bleakrock島からDhalmoraへの船上】
夜の闇の中を滑るように船が行く。彼らが後にしてきた島の動乱に相反して穏やかな海を、ラナ隊長は看板の縁から身を乗り出してじっと見つめていた。
「眠らないのですか?」
ラナの背後から女の声。驚きつつも目を凝らすと、闇の中から音もなく、暗青色の軽装鎧を纏った影が現れた。
カバナントの軍船に見つからないよう、この船は明かりを灯していない。闇の中に立つリヴィーネは存在感が希薄で、よくよく注意しなければ知覚できそうになかった。
「ああ、びっくりさせないでちょうだい」
「驚かせてしまいましたか? すみません」
闇から現れたリヴィーネはそう言いながらも悪びれた様子を見せずに、ラナの隣に歩み寄った。
「でも、お疲れなのではありませんか? 休まなければ障りが出ますよ」
「その言葉、そのままあなたに返すわ、ブリークロックの英雄さん。多大な貢献をしてくれた分、疲れているのではないかしら。狭い船室で雑魚寝で申し訳ないけど、ゆっくり休んでちょうだい。私は見張りを続けているから」
「……あなたはご立派に活躍なされました、隊長。こうやって村人を率いて、無事に脱出できたのですから」
「でも、もっと早く行動できていれば……」と海の方を見ながら、吐き捨てるようにラナは呟いた。「私がもっと早くカバナントの脅威に気付いていれば、もっと早く村の人々に警告して準備を整えられていれば、誰一人死なずに済んだかもしれない」
リヴィーネは慰めの言葉を探したが、何と言えばいいのか分からなかった。
「ラナ隊長、あなたに言伝があります」
何と言えばいいのか分からなかったため、預かっていた言葉を渡すことにした。
「ティルラニが伝えてくれと言っていました。『あなたを許す』と」
闇の中、息を飲む音が聞こえた。
「……では、お言葉に甘えて、私は休ませていただきます。体調も無理をなさらないでくださいね」
そう言い残し、リヴィーネは船室に降りて行った。
双子の月が照らす静かな海の波音は、すすり泣きの声を優しくかき消した。
0 件のコメント:
コメントを投稿